ビジネスモデル特許について

1.ビジネスモデル特許とは

ビジネスモデルとは、一般的には、ビジネスの収益構造、スキームのことをいいます。したがって、ビジネスモデル特許とは、ビジネスの収益構造やスキームを特許にしたもの、ということができます。

ビジネスモデル

ただ、特許庁のウェブサイトなどでは、ビジネス方法特許とかビジネス関連発明とかいった言い方がされており、収益モデル的な観点での捉え方はしていません。

弁理士が解説している文章でも、単にITを使ったビジネス手法的な発明をビジネスモデル特許としていることが多いようです。

しかし、ビジネスモデル特許という限りは、収益のモデルに関連していなければならないのであって、どこでどのように儲けるのかという“仕組み”につながっているものでなければいけません。

逆に、収益のモデルやビジネスの仕組みに関するものであれば、ITを使用していなくてもビジネスモデル特許と呼べる場合があります。

2.ブームの到来と祭りのあと

少し前の話になりますが、平成12年(2000年)頃、ビジネスモデル特許がブームとなったことがありました。米国でビジネス手法そのものが特許になったという衝撃的なニュースに端を発し、アマゾンがワンクリック特許で米国最大の書店チェーンを提訴するなど、米国発のビジネスモデル特許ブームが日本に飛び火し、日本でも我先にとビジネスモデル特許が出願されました。

この時期に出願されたビジネスモデル特許の多くは、ビジネス手法そのものが特許になると勘違いした方の出願が多く、特許率は非常に低いものでした。ただ、ブームが去り、出願が少なくなってきた2003年以降も、下の表に示すように、ビジネスモデル特許が認められる割合は他の分野に比べて非常に低く、わずか7~8%という時代が続きました。祭りのあとのお寒い状況、といった感じですね。

しかし、その後の特許庁による審査基準やガイドラインの整備、公表の成果もあり、申請する側も正しい知識を持つようになっており、最近では、ビジネスモデル分野の特許率もかなり上がってきています(2010年のデータでは25%)。
したがって、新しいビジネスモデルをITを使って実現しようとしているのであれば、特許出願という投資を積極的に行う環境が整ってきたといえるでしょう。

特許査定率・拒絶査定不服審判請求率の推移

(特許庁HPより抜粋)

3.どういったものがビジネスモデル特許として認められるのか

それでは、どういったものがビジネスモデル特許として認められるのでしょうか?

(1)ビジネスモデルそのものはダメ

ビジネスモデルそのものは、日本では特許にはなりません。これは、日本では「発明」というものが、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるとされているためです。
したがって、サーバとかネットワークとかいったIT(情報技術)を使っておらず、ビジネスモデルそのものである場合、「発明」ではないとして特許が拒絶されます。

(2)単にITを利用していてもダメ

それでは、ITを利用したものとして特許請求すれば、特許になるのでしょうか。必ずしもそうではありません。
日本の特許庁は、コンピュータ・ソフトウェア関連発明の審査基準として、特許される発明は、「ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」ものでなければならないと定めています。
したがって、あるビジネスモデルについて単にITを使用したものとして表現しても、特許は得られません。
ただ、「ITの単なる利用」というのと、「ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されている」というのとが、どう違うのか、わかりにくいですね。
このわかりにくさには、弁理士などの実務家も戸惑うことが多いのですが、同じく特許庁が発表している「ビジネス関連発明に対する判断事例集」(http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/tetuzuki/t_tokkyo/bijinesu/biz_pat_case.htm)が、ある程度参考になります。

(3)新規性や進歩性も必要

ビジネスモデル特許とはいっても、他の発明と同様に審査されることは変わりませんから、新規性(発明が客観的に新しいものであること)や進歩性(発明が従来のものから容易に考えられないこと)といった点が特許されるには必要です。
特許庁は、公知のビジネス手法を単にIT化したものや、他のビジネス分野でIT化されているものを別のビジネス分野に適用したに過ぎないものは、原則として進歩性が無いとしており、注意が必要です。

一般的には、

・ビジネスモデルそのものが新規なものであること
・その新規なビジネスモデルのために最適化されたITの利用の仕方をしていること

という二つの要件を満たす場合、進歩性ありとされて特許される可能性が高いでしょう。

4.本当のビジネスモデル特許とは ~間接的独占~

上に述べたように、ビジネスモデル特許はビジネスの収益モデルの特許です。したがって、単に特許が取れただけではダメで、特許の内容が収益に結びついていなければなりません。

特許の内容が直接的に収益に結びつくのが、理想的といえます。これは、ビジネスモデルそのものの特許を取得して独占することになります。

しかし、上に述べたように、ビジネス手法そのものは特許には成りませんので、特許による直接的な収益プロテクトは難しいのが現状です。

そこで考えられるのが、収益モデルを間接的にプロテクトする特許の取り方です。これは、間接的独占®と呼ばれます。

具体的には、下図に概念的に示すように、収益モデルに不可欠な要素や、収益モデルを真似しようとライバルが進出する場合、必ず必要となるツールを特許化していくのです。いわば、橋頭堡を特許化する戦略です。

橋頭堡特許

具体的にどのような特許を取っていけば良いかは、検討しているビジネスの内容によりますので、お気軽にご相談下さい。

また、拙著、「本当のビジネスモデル特許がわかる本」、「すべてはフロントランナーの成功のために ~新しいビジネスモデルへの戦略とヒント~」(いずれも株式会社税務経理協会発行)にも、具体的事例が多く掲載されていますので、こちらもご覧下さい。

5.ビジネスモデル特許の具体例

弁理士保立浩一が代理した案件で、特許が許可されたビジネスモデル特許を幾つかご紹介しましょう。

特許第3724721号
「販売促進方法、販売促進システム及びコンピュータプログラム」

この特許は、スーパー等でよく見かけるポイントカードによる販売促進手法に関するものです。通常は、来店回数や購入金額が多くなればなるほど、付与されるポイントが増えるのですが、この発明のユニークなのは、来店回数が減ったとか、購入金額が減ったといった傾向を捉えて効果的にポイントを付与する点にあります。つまり、“客離れ”をポイント付与によって防止しようというアイデアですね。
流通業界を中心に顧客の囲い込みが勝負の分かれ目になってきていますが、その際に効果的なビジネスモデルとなる可能性を秘めています。

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特許3971334号
「独居老人向け食事宅配サービスに使用されるヘルパー備忘シート出力システム」

この特許は、コンビニ等を拠点として居宅介護サービスを展開する際、ヘルパーにお弁当の配達もやってもらおうというアイデアが元になっています。単にヘルパーがお弁当の配達をするというだけでは進歩性の問題で特許になりにくかったため、間接的独占®の戦略を採用し、「備忘シート出力システム」というツールの特許として成立させています。
本格的な高齢化社会を迎え、コンビニ業界や配食業界で採用すると有意義なビジネスモデルとなり得ると考えられます。

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特許4611917号
「インターネットによるトータルリーガルライブラリエイドシステム」

この特許は、法律事務所のビジネスモデルをカバーした特許です。インターネット経由で各種の法律文書を検索させ、任意の法律文書の書式ファイルをダウンロードによって提供したり、入力された情報に従って法律文書を自動作成するサービスを実現したりする内容の特許となっています。
法律事務所のネットビジネスの一形態として、非常に参考になりますね。

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